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グルーヴについて

2017/12/25

こんにちは。
東京・吉祥寺 M&N Bit Of Sound ボイストレーニングスクール
ボイストレーナーのフルカワです。
 
 今回は【グルーヴについて】というお話です。「グルーヴ感のある・・・」とか「グルーヴィーな・・・」という表現を耳にした(目にした)ことのある方は多いと思いますが、グルーヴとは何なのか?ということについてしっかりと理解し説明できるような人は非常に少ないのではないかと思います。

感覚的な言葉であるうえに、非常に面倒なことに定義が様々あり、専門家やミュージシャンによっても解釈の仕方や説明の仕方が違ってきてしまうこのグルーヴという言葉。実際にグルーヴを醸し出すような演奏や歌唱をすることの難しさを知っているが故に、このグルーヴというテーマについて一介のボイストレーナーが文章にして説明しようとするだなんて思い上がりも甚だしいというのは重々承知の上で、私自身の音楽の全てをぶつけるつもりで、私なりの言葉で書いていきたいと思います。
前回の記事からの流れではありますが、そちらも合わせて、是非最後までお付き合いくださいませ。
 
 
 まずは例え話から。私たち人間の居るこの世界には、時間という概念があります。一年、一ヶ月、一日、一時間、一分、一秒・・・という感じで細かくなりますが、この時間の流れが変化したり止まったりすることは無いと考えた上で、これを「テンポ」とします。

その世界に居る人間の持つ性格や性質は多様性に富みます。石橋を叩いて渡るような人もいれば、考える前に動いてしまうような人もいて。リーダーとして周りをグイグイ引っ張る人や、フォロワーとしての調整力に優れる人もいて。頑固な人から気弱な人まで、落ち着いた人からせっかちな人まで、いろんな「リズム」の持ち主がいます。そんな人間が集まって社会という組織が出来上がります。

会社や学校、大きくは国や地域、小さいところでは家庭など、様々な組織がありますが、その組織の中で人々が支え合い、補い合い、有機的に機能し、「うねり」や「ノリ」のようなものを伴うある種の高揚感のみたいなものが生まれてきたとすれば、それがいわゆる「グルーヴ」であり、「グルーヴ感」のある状態であると私は考えます。

もっと簡単に言えば、人間関係においての「気が合う」「ノリが合う」「ウマが合う」という感じに近いかもしれません。すぐに打ち解けるような時もあり、時間をかけて良い関係を構築する時もあり、逆にいつまでたっても相性が悪いままの時もあったりします。

人間という生き物はそもそも完全無欠なんてことは絶対にないわけで、そんな不完全な人間同士が集まって、どうにかこうにかお互いを分かり合おうとして生まれてくる一体感のようなものこそがグルーヴなのです。

なんとなく理解できましたでしょうか?

  
 では音楽ではどういった話になるのか。これは「カラオケの音源」を例に挙げると分かりやすいかと思います。カラオケボックスで歌っている時、スピーカーから流れてくる音源が、CDやライブの音などと比べてなんだか物足りないなぁと感じたことはありませんか?あの音源というのはオリジナルのカラオケ音源ではなく、専門のクリエイターさんがパソコンで作っている、ある種のコピーです。パソコンで専用のソフトを使って音を打ち込んでいるので、リズムやピッチはかなり正確な仕上がりになっているはずですし、それぞれの楽器の音も本物にかなり近い音色を選んで作りこんでいます。「生演奏風」なんてのもあったりするほどクオリティーが高いものもあります。それであるにもかかわらず、なぜ本物に比べると物足りないのか。それは一言で言うと、人間が実際に弾いていないからです。

先ほどから何度も言うように人間は完璧というのはありえないのですが、そんな完璧な演奏ができない人間が、それでもお互いの癖や特徴、楽曲のコンセプトなどを高い次元で理解しあって、得も言われぬ一体感や高揚感を醸し出すことができている時に出るグルーヴ感が、機械の作り出せる完璧さをも凌駕しているわけです。「職人の手仕事」に近い感じかもしれませんね。

楽曲の構成やバンドの構成メンバーの特徴などにもよりますが、何拍目にアクセントを置くのか、どの周波数帯の音を強調するのか、リズムはタイトなのかルーズなのか、などなど、様々な決め事を高次元で理解したうえに、各パートのプレーヤーの出す音の特徴だったり混ざり具合だったりをしっかりと理解した上で演奏していると、グルーヴ感が満載の演奏になります。

特に世界のトッププレーヤーが、常識ではありえないくらいの集中力(スポーツなどでは「ゾーンに入る」とも言いますね)で録音したような作品というのは、感動しか生まないと言っても言い過ぎではないわけで、これをパソコン上で再現しようとしてもなかなか難しすぎるわけです。
 
 
 具体的な音源を挙げてみます。まずは Luther Vandross の1982年の楽曲、Never Too Muchのカバーです。ボーカルが無くて、ギターがメロディーラインを弾いている感じなので、ある種カラオケと同じことをやっているわけですが、あまりにもオシャレでカッコイイですよね。カラオケ屋のスピーカーからこのクオリティーの音が流れてきたら腰を抜かしそうです。

Paul Jackson Jr. – Never Too Much
https://www.youtube.com/watch?v=foDntJS6_XI
 
 
 さらに名曲のボーカルレスバージョンです。ご存じ Eric Clapton
 の楽曲ですが、これは完全にご本人のボーカルだけカットしたバージョンです。世界最高峰のプレーヤーが集まっての演奏は、ボーカルが無くても全然聴けてしまいます。こんなバックバンドでいつかは歌ってみたい・・・なんて思いつつ、一人だけスキルが足りずに置いてけぼりになってしまいそうですね。精進せねば。

Eric Clapton – Change The World (Instrumental Version)
https://www.youtube.com/watch?v=nXofDuPn4KM
 
 
 
 さてそれでは、どのようにすればグルーヴを感じながら歌ったり演奏できるようになっていくのかというお話ですが、様々な条件が揃わなければいけませんし、練習のクオリティーも上げていかなければなりません。

上にも書きましたが、そのバンドやユニットのコンセプトや演奏しようとする楽曲自体のコンセプトを、かなり高いレベルで理解することが必要ですし、その上で各パートのプレーヤーの癖や個性を理解して、それぞれ補い合いながら最も心地よい響きになるよう練習を重ねていくことが必要となります。とにかく反復練習が大事です(参考:【反復練習の重要性】【反復練習の重要性その2】)。

そして当然、周りの音を聞く能力も求められます。ただ自分のパートだけ間違えないように弾いていても一体感や高揚感は得られません。むしろ、浮きます。なので、自分の持ち場をしっかり守りつつ、周りの音もしっかり聴くことができる能力が求められます(参考:【聴くことの重要性】、【歌に繋がる楽曲の聴き方・捉え方】)。

これは、いかに外側に意識を向けられるのか、という話にもつながってきます。個人練習をしっかりやっている間は内側の意識が強く、全体で合わせる練習をするときには外側の意識が強くないとうまくいきません(参考:【内側の意識と外側の意識】)。バンド内で歌唱と演奏がバラバラではダメですし、演者と聴衆の一体感の無いライブというのは、要するに全然盛り上がっていないということになるわけです。
以前の記事も参考にしていただきつつ、練習に励んでいただきたいと思います。
 
 
 そして何よりボーカリストはナチュラルな発声ができないといけません。ナチュラルな発声とは、負担も少なく、そのボーカリストの持っている能力を最大限発揮できるような声帯の使い方であり、それこそがボイストレーニングを突き詰めていった先にあるものだったりします。ナチュラルではない発声になってしまうと、声帯への負担が大きくなり長時間の練習にも耐えられなくなります。

練習をする中で、どういう風に歌えば気持ち良くカッコ良くバンドとの一体感を感じながら歌えるのかが分かり始めたのに、変に喉が痛くなってしまって集中できないとか、理想の歌い方が思い描けているのにその通りに声帯が動いてくれない、となるととても悲しいですよね。だからボイストレーニングで声帯のナチュラルな使い方を勉強し、自分の個性を消すことなく、変な癖はきちんと直して、理想に少しでも近づけていくことが大切なんです(参考:【母音の発声を揃える】)。
 
 
 ではその具体的な練習法についてのお話です。本当に様々あるのですが、私がレッスン時に生徒さんに提案させていただくトレーニング法を幾つか紹介します。

まずは横軸と縦軸を意識した練習です。横軸というのは楽譜の横のライン、すなわち自分が歌うべきメロディーラインや各パートの演奏するラインを表し、縦軸とは楽譜の縦のライン、すなわち同じタイミングにおいて他にどの楽器の音が鳴っているのか、またはどの楽器が休符なのか、などを表しています。

最も良い方法としては楽譜(スコア)を見ながら練習することなので、音源を聴きながら楽譜を見ながら歌うというのが最も良い練習になります。ただ、楽譜が手に入らないとか、そもそもオタマジャクシが読めないという場合もあるかと思います。そんな時にはメトロノームで練習することをお勧めします。全ての音が聞こえている状態で歌うのではなく、カチッカチッカチッカチッ・・・という音のみで練習します。「テンポ」のみで歌う練習をする、ということです。

最初はオリジナルと同じくらいのスピードで。例えばそれをどんどん早くしてみたり遅くしてみたりするのも良いと思います。またそのメトロノームの音を裏拍だと思いながら練習するのも良い練習になります。この練習をすることでテンポやリズムを感じることに敏感になれますし、実際に音と合わせて歌った時にしっかりと他の音を聞き取ることができるようになり、一体感を得る感覚が磨かれます。

メトロノームも無いという場合は、シェイカーを振りながら歌ってみたり、一定のリズムで手を叩いたり指を弾きながら歌ってみても同様な効果が期待できます。

次に、歌詞を歌わない練習です。メロディーラインを、歌詞ではなく「ラララ~」や「ナナナ~」などの音で置き換えて歌う練習をしてみましょう。いきなり歌詞をつけて歌ってしまうとその言葉を歌うことに集中力が奪われてしまい、周りの音を感じたりリズムを捉えたりする感覚が薄れてしまいます。特に洋楽などは英語が大変だったりしますので、まずは歌詞を歌わずにリズムを捉えらるれるようにしてから、少しずつ歌詞を乗っけてみると良いでしょう。

さらに、オリジナルを歌っているご本人と一緒に歌うという練習です。カラオケではありません。オリジナルの音源で、ご本人と一緒に歌う、ただそれだけです。その際、ご本人の癖や特徴をしっかり分析しながら声を重ねていきましょう。例えば声を出し始める前の息の吸い方だったり、歌い始めの子音や母音の処理の仕方だったり、語尾の伸ばし具合だったり(参考:【子音の特徴を知り、活用する】)。

上手い人の音源で声を重ねていく練習をやればやるほど、その方の息遣いやグルーヴの感じ方がわかって非常に勉強になります。最初慣れるまでは非常に難しいと思いますが、ご本人と一緒に歌ってズレなくなるようになるまで歌い込んでみましょう。
 
 
 
 いかがでしたでしょうか。この講座史上最長の文章に、最後までお付き合いくださいましてありがとうございました。うまく伝わったかどうか不安がないと言えば嘘になりますが、私の頭の中にある言葉はほぼ吐き出したつもりです。

グルーヴ感は、音楽家の永遠のテーマです。メンバーや楽器の構成、アレンジの仕方、その日のテンションなど、その時々で変化するのがグルーヴ感です。そこを敏感に感じ取りながら、その時その瞬間の最も気持ち良いグルーヴを追求していくことが音楽の醍醐味だったりするわけです。一朝一夕には理解できないことではありますが、だからこそ尊いんだと私は思っています。

そしてこの醍醐味や尊さを知ってしまったが故に、音楽家であり続けたい、ボーカリストであり続けたい、と心から思うようになり、ボイストレーナーとして皆様のサポートをさせていただく仕事に就いているわけです。

このボイストレーニング講座、書きながら何度もくじけそうになりました。自分の文章力の無さに辟易することもありました。読者の皆様と書き手である私の間に、きちんとグルーヴは生まれているのか、などと不安になることもありました。ですが、皆様からの様々な反応、叱咤激励、アドバイスなどをいただきながらなんとかここまで続けることができました。

そして、色々と難しい相談に乗ってくれた当スクールのスタッフの支えが非常に心強かったです。同じトレーニングを積んだ者同士、真剣に考えてくれて様々な意見を様々な角度から提示してくれました。ここでの議論がなければこれらの記事は書けなかったと言っても過言ではありません。心強い仲間を持てた私は幸せ者です。

さてさてそんなボイストレーニング講座、突然ではありますが今回の記事をもちまして、しばらくの間一旦お休みとさせていただきます。少し充電期間をいただきまして、また後々復活する予定です。お楽しみに!
 
それでは!今日も良いボイトレを!